六価クロムに代替技術が求められる背景とは
六価クロムとは、クロムの一種であり、酸化数が+6の状態のものを指します。
クロムは自然界に存在する物質ですが、六価クロムは人工的に生成されることが多く、耐食性に優れ、扱いのしやすさから長年工業用途で使われてきました。
めっきにおいても六価クロムを用いたクロムめっきは耐食性、硬度、装飾性に優れていることから、自動車、電子機器、建材などさまざまな分野で使用されてきました。
高い利便性がある一方で、六価クロムは強い酸化作用により発がん性や皮膚障害を引き起こす可能性があるため、環境負荷や作業者への健康リスクが懸念され、EUをはじめ、さまざまな国で規制されています。
六価クロムめっきに関しては、工程で使用するものの最終製品に六価クロムは含まれないため、製品の安全性に問題はありません。
しかし、メーカーだけでなく、消費者の環境保全の意識も高まる現在、製造工程においても六価クロムを使わない技術のニーズが高まっています。めっきにおいても代替技術のニーズが高まっており、自動車産業を筆頭にさまざまな分野で代替技術への切り替えが進んでいます。
国内外における六価クロムの規制例
以下に、六価クロムに対する代表的な規制を紹介します。
RoHS指令
電気・電子機器への六価クロムを含む特定有害物質の使用を制限するEUの規制です。EUに流通させる製品において、対象となる物質が規制濃度を超えることは禁止されています。EUに輸出をする企業にとって関心の高い規制ですが、クロムめっきは処理の工程で金属クロムに還元されるため、対象外です。
REACH規則
EU圏内で製造、輸入及び川下使用者を対象とした制度です。「化学物質」と「混合物中の化学物質」「成形品中の化学物質」を対象としており、六価クロムなどの高懸念物質は使用を制限、または認可が必要となる場合があります。
PRTR制度
有害化学物質を取り扱う事業者を対象にした制度で、環境に排出した量、または廃棄物に含まれる量を事業者が把握し、国に届け出る制度です。六価クロム化合物は第一種指定化学物質に指定されており、取り扱う事業者には厳格な管理が求められます。
水質汚濁防止法
水質汚濁防止法は、公共用水域(河川、湖沼など)や地下水など、「水」の汚染を防ぐことを目的とした法律です。水質汚濁物質を排出する事業者(工場、事業所)は制定された排水基準を守る必要があります。
六価クロム代替技術として検討されるめっき処理
六価クロムめっきの代替として検討されているめっきの種類には、どのようなものがあるのでしょうか。
六価クロムめっきは美しい金属感(外観)と、優れた機能性(耐食性、耐摩耗性)を兼ね備えており、コストや量産性にも優れていることから、装飾用途から機能性を重視する用途まで幅広い分野・用途で使用されてきました。
しかし、前述のように環境保全への意識の高まりと規制の強化により、従来技術と同等の機能性、あるいは外観を持ちながらも、より安全で環境負荷の少ない代替技術が求められています。
六価クロムめっきの代替として、よく検討されるめっきの種類は以下の通りです。
- 三価クロムめっき
- 無電解ニッケルめっき
- スズ-コバルト合金めっき
それぞれの技術には特性や適用範囲に違いがあるため、目的や使用環境に応じて選定を行います。
以下ではそれぞれのめっきの特徴について、ご紹介します。
代替技術(1):三価クロムめっき
三価クロムめっきは、六価クロムめっきの代替技術として最も多く選ばれている技術です。
三価クロムは自然界や人体にも存在するミネラルの一種であり、六価クロムに比べて毒性が低い特徴があります。
めっきで使用する場合、作業者や環境への影響が低く、外観性、機能性においても従来の装飾クロムめっきと同等であることから、代替技術として切り替えが進んでいます。
三価クロムめっきは、低環境負荷且つ従来技術と同等の外観性や機能性を持つことから、非常に魅力的なめっき技術と言えますが、厚付けが困難であるため機能重視の製品には不向きな一面もあります。
代替技術(2):無電解ニッケルめっき
無電解ニッケルめっきも代替の選択肢のひとつとして検討される技術です。
無電解ニッケルめっきは電気を使用せず、薬品による化学反応によってニッケル皮膜を形成する技術で、絶縁体の基材や複雑な形状の部品、また寸法精度が求められる場面に有効です。
無電解ニッケルめっきは、装飾性や密着性を高める下地めっきとしても広く用いられており、めっきの皮膜は高硬度で耐摩耗性・耐食性に優れていることから、機能性を重視する用途にも適しています。
製品の用途に応じ、ニッケルと他の微粒子を組み合わせて共析させる「複合めっき」や、異なる金属を共析させる「多元合金めっき」などといった特殊なめっきも可能であることから、従来のクロムめっきの代替技術として検討される場合があります。
代替技術(3):スズ-コバルト合金めっき
スズ-コバルト合金めっきは、六価クロムめっきによく似た色であることから、代替技術として検討されるケースがあります。
六価クロムめっきに近い、明るく青みがかった金属光沢が特徴で、変色しにくいため、外観を重視する用途にも適しています。
バレルめっきによる大量生産も可能で、小型で複雑な形状の部品に対して、安価かつ効率的な処理が可能です。
ただし、スズ-コバルト合金の皮膜は六価クロムめっきと比べて硬度が低く、耐摩耗性に課題が残ります。このため、下地にニッケルめっきを施し、耐食性や硬度を補完するのが一般的です。コストパフォーマンスや外観性を重視しつつ、ある程度の機能性も求められる場面で、スズ-コバルト合金めっきは有効な代替技術のひとつとなります。
「六価クロムめっき」と「三価クロムめっき」の違い
これまでご紹介した通り、さまざまなめっきが六価クロムめっきの代替として検討されていますが、その中でも代表的な代替技術は「三価クロムめっき」であることは前述の通りです。
ここで、多くの方が「具体的に何が違うのか?」と感じるのではないでしょうか。実際に代替を検討する際には、従来技術との違いを把握することが欠かせません。
六価クロムめっきと三価クロムめっきは、毒性をはじめ、仕上がり(膜厚、皮膜特性、色)について違いがあります。
以下のコラムでは、六価クロムめっきと三価クロムめっきの違いについてご紹介しております。ご検討時のご参考にご覧ください。
メリットとデメリット
この二つのめっき技術のメリットとデメリットは以下の通りです。
メリット | デメリット | |
六価クロムめっき |
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三価クロムめっき |
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両者は性能やコスト、安全性において一長一短があり、代替を検討する際には、求められる外観や機能、規制対応の要件をふまえて選定することが重要です。
クロメート処理との違い
六価クロムを使用する表面処理には、めっき以外にクロメート処理もあります。
クロメート処理は主に亜鉛めっきの上に施される防錆目的の化成処理で、皮膜中に六価クロム(または三価クロム)が含まれます。このため、六価クロムによるクロメート処理はRoHS指令の規制対象となります。
一方、クロムめっきは装飾性や耐摩耗性などの機能性を目的に、電解めっきで処理されるもので、最終的に金属クロムへ還元されるため、RoHS指令の規制対象外とされています。
このように、クロメート処理とクロムめっきは用途や規制の扱いが異なりますので、混合しないように注意が必要です。
塚田理研の代替技術「クロムフリーめっき工法」について
塚田理研は、自然豊かな長野県駒ケ根市に拠点を構えるめっきメーカーとして、環境への配慮を重視した表面処理技術の提供に取り組んでいます。
当社では六価クロムめっきはもちろん、低環境負荷な三価クロムめっきにも対応しており、高品質なめっき技術を提供いたしております。三価クロムめっきは従来のクロムめっきと遜色ない仕上がりが得られることから、代替技術として選ばれており、多くのお客様が切り替えを進められています。
また、低環境負荷の技術をお求めのお客様に向けて、より環境にやさしい「クロムフリーめっき工法」も提供しております。
ここでは、六価クロムの代替技術を検討している企業様に向けて、当社が提供するクロムフリー工法、そして三価クロムめっきについてご紹介します。
六価クロム不使用のエッチング工法(クロムフリーめっき工法)
六価クロムを使用するめっきと聞くと、多くの方が「クロムめっき(表層)」を思い浮かべるかもしれません。
しかし、プラスチックめっきにおいては、めっき前のエッチング処理でも六価クロムが使用されます。つまり、六価クロムが使われる工程は一般的に「エッチング」と「表層めっき」の2段階となるのです。
エッチング処理は、プラスチック表面を粗化しめっきの密着性を高める重要な前処理工程です。従来は六価クロムを使用する方法が主流でしたが、環境規制の強化や環境保全への意識の高まりから、六価クロムを使わない、代替技術の開発が求められています。
塚田理研では、このエッチング工程においても六価クロム不使用の工法を開発・提供し、環境負荷の低減と高い密着性を両立しています。
●六価クロムフリーのエッチング工法
- 過マンガン酸
- オゾン水処理
- UV照射
難めっき材にも対応しておりますので、さまざまなご依頼への対応が可能です。
さらに、後述の三価クロムめっきと組み合わせることで、完全なクロムフリーめっきプロセスが可能になります。このクロムフリーエッチング工法は、環境性能と安全性を両立した前処理として、自動車業界をはじめとする多くの分野で採用が進んでいます。
三価クロムめっき
当社では、従来技術の代替である三価クロムめっきに対応しております。
三価クロムめっきは主に装飾目的でご採用頂いており、六価クロムめっきの代替技術として切り替えが進んでいます。(色調:白色、黒色(3種))
当社は設備として全自動三価クロムめっきライン、クロムフリーライン(Eライン)を有しており、前述したエッチング工程、また表層のめっきにおいても「六価クロムを使わない高品質なクロムめっき」を可能としています。(量産にも対応)
●クロムフリーライン(Eライン)
六価クロムめっきからの代替として三価クロムめっきを検討されていましたら、ぜひ当社までお気軽にご相談ください。
六価クロムめっきの代替技術をお求めでしたら塚田理研にご相談ください
六価クロムに対する規制の強化や社会的な環境意識の高まりを受け、多くのモノづくりの現場では、安全性と機能性を両立した代替技術への転換が求められています。
塚田理研では、三価クロムめっきをはじめ、無電解ニッケルめっきやクロムフリーエッチングなど、多様なニーズに応える代替表面処理技術をご用意しております。
当社は、長年にわたり培ってきためっき技術と、環境に配慮した生産体制により、装飾性・耐食性・生産効率などを考慮した最適な処理をご提案いたします。また、試作から量産までの一貫対応が可能です。
「六価クロムを使わない処理に切り替えたい」「安全性の高い処理に変更したい」といったご要望や課題がございましたら、ぜひ塚田理研にご相談ください。お客様の製品や使用条件、ご要望に応じた最適な表面処理方法をご提案いたします。
【お問い合わせ先】
本社:0265-82-3256
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